(公開日:2020.10.28)(更新日:2024.9.26)
僕は現在36歳で現役の介護福祉士(14年目)、妻も現役介護福祉士、2児のパパです。
今回は【利用者さんの暴言・暴力に困っている介護士さんへ】に関する内容です。
「スタッフが利用者さんを殴ると虐待、利用者さんがスタッフを殴ってもおとがめなし。」
これに納得のいかない介護現場のスタッフは多いのではないでしょうか?
そこで、こんな疑問に答えたいと思います。
・利用者の暴力ってなんとかならないの?
・どうやったら防げるの?
僕自身、利用者さんから暴力を受けたことがあり、男の僕だったからケガはしなかったけど女性スタッフだったらケガしてるな…
ということもありました。
そこで、利用者さんの暴力行為で悩んでいる介護スタッフの方に、介護現場でリアルに使える知識を提供したいと思います。
ぜひご覧ください♪
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認知症高齢者が暴言・暴力をふるう理由
その行動はなぜなのか、理由が分かると人間は許容範囲が広くなる生き物です。
暴言・暴力のある利用者さんの理解の第一歩ですよ(^^♪
要因はたくさん考えられますが、主な3点をあげさせていただきます。
- 感情のコントロールが難しい
脳の中で感情を司る前頭葉が加齢とともに委縮し、怒りを抑えるために働いていた理性も働かなくなってしまいます。 - 酒やタバコが悪影響を与える
酒やタバコも前頭葉に悪影響を与えることが認められていて、長年の悪い生活習慣が怒りや暴力となっていることも否めません。 - 薬が悪影響を及ぼす
認知症の方に限らず、日ごろから抗うつ薬や睡眠薬を服用している高齢者は数多くいます。薬に頼るの生活が一度身に付くと、「その薬なしでは不安で仕方ない」と感じるようになり、情緒不安定を招きます。薬に頼る習慣が精神的な不安定、そしてそれが暴力行為を助長している可能性もあります。
暴言・暴力に困っている介護士さんへ
認知症で理性がきかないから仕方ない…
仕事だから仕方ない…
と思っていても、実際に暴言・暴力をされてしまっては、自分の身が危険に晒されてしまいますよね…
そこで、自身の身を守る2つのポイントをお話したいと思います。
利用者とのコミュニケーションがカギ
利用者さんとのコミュニケーションにより、信頼関係を築くのは言うまでもなく大切なことです。信頼関係を築き、安心感を与えて暴言・暴力を防ぐこともできます。
ここでまずオススメなのが、先手のコミュニケーションです。文字通り、「先手を打ったコミュニケーションを取る」ということで、相手が怒ってしまうかもしれないことを予測してこちらから先に声をかけることです。
いくつか例をあげます。
例)
①トイレに行きたいと言う前にトイレ行きますか?と声をかける。
➪トイレに行きたいのにすぐに行けず、怒ってしまう・不安にさせるのを防ぐ。
②脱着衣の介助の際、しっかり声をかけて洋服を脱いでいただく。
➪相手は急に服を脱がされると、物を盗ろうとしている・自分に危害を加えようとしていると思う。防衛本能により手が出てしまうことを防ぐ。
③いつも食べている梅干がない。梅干を食べきってしまったことを先に伝え、謝罪する。「明日一緒に買いに行きましょうね♪」なども優しい声のトーンで伝える。
➪相手から「梅干は?」と聞かれる前に謝罪し、次の日には食べれることを伝えているので怒りの感情が起こりづらくなる。
当たり前のように感じる声かけかもしれませんが、ここであげた例以外にも、こんなことで怒ってしまうかもしれないと予測し、先手を打っていきましょう!
これらの声かけを上手に使うことで、怒りの感情を出にくくさせることが重要です。
考えられる要因をあげ、いろいろ試してみる
利用者さんが、なぜ暴言・暴力をしてしまうのか、しっかりと向き合うことが大切です。
そして、「どんな人だったのか?」「どんなことで怒ってしまうのか?」など、ご家族にも聞き取りを行い、少しでも多くのニーズに応えて怒りの感情を出にくくさせることが重要ですね。
ここからは、認知症高齢者の暴言・暴力の考えられる要因と解説をしていきます。
シンプルにこちらの対応が悪い
利用者さんは高齢で認知症だとしても、見た目、言葉づかい、声かけの仕方など、良く見ています。
僕たちと一緒で、うれしいと感じたり、イヤだったり、しっかり感情があるんです。
自分自身、または他のスタッフの対応が悪いことで暴力や暴言が出現してしまっているかもしれません。自分に目を向けず、すぐに利用者さんを悪者にする方も中にはいます。
まずは利用者さんとしっかり向き合い、自分の対応が見本になるような対応なのか今一度、確認してみて下さい。
声かけの仕方が悪い
元気のない声かけをして、相手をマイナスの感情にしていませんか?
僕自身、利用者に声をかける時、自分の第一声にすごく気を付けています。自分の第一声に元気があれば、相手はプラスの感情になり、その後もそのプラスの感情が続きます 。
これで暴力や暴言が出現しづらくなります。
「元気な人に声をかけられると元気になる」 実際、自分もそうですよね!!
不穏になりやすい利用者さんに対しては特に第一声を意識してみて下さい、利用者さんたちの反応が全然違うことが実感できますよ♪
環境に慣れていない(入居まもない場合)
入居されたばかりの利用者さんは、馴染みない場所(職場)や職員さんたちに囲まれて、不安な気持ちでいっぱいです。
「自分がどこにいるのか、なぜここにいるのか、周りにいる人が誰なのか」が理解できず、不安や混乱が続きます。
住み慣れた自宅から施設へ、または施設から施設へ、生活の場が変わり環境に適応できずに不安や混乱が続き、認知症の悪化を招いてしまいます。認知症の悪化から暴言・暴力が出やすい状態に陥っています。
大切なのは「不安な気持ちに寄り添ってあげること」です。
絶対にご本人を否定せず、受け入れてあげるようにして下さい。暴言・暴力も次第に無くなっていきますよ♪
専門職だからこそ「認知症のせいでこの方は、時間・場所・人の認識しづらくなっている。だから環境に適応しづらくなっていて混乱するのは当たり前!」と冷静に受け止める。そして「信頼関係を構築することに尽力すること」がポイント。
水分が足りていない
年齢を重ねるごとに身体の水分量は少しずつ低下していきます。それに加えて、高齢者は「トイレに行きたくなってしまうから水分をあまり取らない」という方が多いです。
しかし身体の水分量は、1%低下するだけで頭がぼんやりすると言われています。その状況が継続することで、時間を掛けて認知症の症状へと変わっていきます。
- 1日1,500mlを目安に水分摂取
- むくみ治療の「利尿剤」は中止する(可能ならば)
1日に1,500mlの水分摂取していただくのは難しいことかもしれませんが、こまめに飲んでいただくことをオススメします。
これで劇的に認知症の症状を抑えるとともに、暴言・暴力が出現しにくくなります。
これで改善された例はたくさんあります。だまされたと思って試してみるのも良いと思います(^^♪
お茶に加えて、お好きなジュースも一緒に飲んでもらえるようにするといいですね!
睡眠が足りていない
「慢性的な睡眠不足は認知症の悪化につながる」と言われています。
認知症には「脳血管性認知症」「レビー小体型認知症」があり、圧倒的に多いのは「アルツハイマー病」。この病気はβアミロイドというたんぱく質が脳にたまり、脳の神経細胞を破壊することで起こります。
かかりつけ医が眠剤をオススメした場合、眠剤も弊害があることを理解しておいて下さい。長期服用になると薬が身体にたまっていき、頭がぼんやりしている状態が長く続くために、認知症が進行してしまうと言われています。
男性または、女性スタッフが苦手(相性が合わない)
単純に「男性または、女性スタッフが苦手」で感情が出やすくなってしまっているということもありますよね。苦手でない性別のスタッフが対応することが良いですが、実際なかなか難しいですよね。
これは僕の体験談なのですが、女性スタッフが苦手だが、暴力をふるうほどではない男性利用者さんがいました。
関わった女性スタッフは悪い対応をしていないのですが、声のトーンが高く(ハスキー)、それが不快でいつも男性利用者は不穏になってしまい、ある時ついに暴力行為がみられました。
その日からは、なるべくその男性利用者と関わらないようにしたら日常的に不穏が減りました。
この一件で、異性介助・同性介助が苦手ということもあるけど、相性みたいなものもあることが分かりました。
「仕事だから関わらないと!」とムリに思わず、周りのスタッフに相談して「物理的に距離を置く」のも大事ですね。それでイヤな気持ちにならないのであれば、お互いにハッピーですよね。
ボディータッチ
安心感を持ってもらうためのスキンシップで、ボディータッチをしている方いると思います。
認知症の高齢者も僕たちと同じで、触られるのがイヤな人ももちろんいます。
僕自身、男性利用者さんに安心感を持ってもらうため腰に手をまわした時に「気持ち悪い」と言われ、殴られそうになったことがあります。
これは自身で暴力を助長してしまっていますので、自分の対応を見直す必要がありますね。
それでも暴言・暴力が止められない場合
とは言っても、利用者さんの中には上記の対応を尽くしたとしても暴言・暴力が止められない人もいます。
僕の勤めている施設には、どんなに丁寧に対応しても、時間やスタッフを変えて試行錯誤しても手が出てしまう利用者さんがいました。これは認知症や精神症状によって致し方のないことです。
でも例えば、利用者さんがカッとなっていつものように手が出そうになった時、あなたはどの立ち位置にいたか覚えていますか?何かの拍子に手が出てしまう可能性がある人の真正面に立って、声かけをしたりケアにあたっていませんでしたか?
暴力が出てしまうと分かっている利用者さんと接する時に、暴力を受けないような立ち位置を意識出来ていますか?
叩かれた、つねられた、蹴られたと声をあげることももちろん大切なことです。介護士も一人の人間ですし、怖い思いや辛い思いをしても良いケアをしなければいけないなんて、そんな理不尽なことはありません。
でもだからこそ、自分の身を守りつつ利用者さんをただ加害者にしてしまわないような立ち振る舞いも忘れてはいけません。
例えば、
- 声かけの際の利用者さんとの距離感は適切か?
- 真正面ではなく、隣に立ち声かけで落ち付いているかどうか?それを確認しているか?
- 手が出てきた場合、どう対応するか頭の中でイメージしながらケアをしているか?
あらゆることを想定した上でケアにあたることが、介護士にとっても大切になってきます。場合によっては2名以上の介護士が必要になることもあります。それはお互いの安全を守るためには必要なことです。
もう一度言いますが、介護士は暴言・暴力を全て我慢しなくてはいけない訳ではありません。介護士の人権も守られるべきものです。そしてこれは利用者さんにも言えることで、好きで暴力を振るっているわけではない、認知症という病気によって引き起こされる症状であることを決して忘れないでください。
利用者を加害者にしないように、また自分自身も被害者にならない行動をプロとして常に念頭においてケアに当たりましょう。
さいごに……
ある利用者にやって通じたことが 他の利用者に通じないことは介護現場では多々あります。暴力をふるう利用者も他の利用者と同じ対応をしてダメだからとすぐに 「あの利用者、話通じない」 という会話が目に付きます。
絶対に利用者さんを加害者(悪者)にしてはいけない!
介護士は利用者と向き合うことが仕事。たくさん知識の引き出しを持って、歩みを止めずにいろいろ試すべき! その心を忘れてはいけません。
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